
目次
正座と階段の下りで膝が痛む、その背景を段階ごとに整理します
「立ち仕事の後、階段を下りるときだけ膝の内側がズキッとする」——診察室でよく伺うお話です。正座のしづらさも、同じ背景から生じることがあります。この記事では変形性膝関節症の原因と軟骨がすり減る流れ、初期から末期までの段階別の特徴、そして受診を検討する目安を順に整理します。ご自身の膝が今どのあたりにあるのかを、落ち着いて見極める材料になれば十分です。
この記事の要点まとめ
- 膝の痛みは加齢や体重、O脚、日々の動作負荷が重なることで生じやすくなります。
- 初期のこわばりから正座や階段での痛み、安静時の痛みへと段階的に変化します。
- 痛みが続く場合や生活に支障がある際は、早めに医療機関で状態を確認しましょう。
変形性膝関節症はなぜ起こる?主な原因を整理
膝の変形は、ひとつの原因で決まるものではありません。加齢に骨格の傾きや体重、日々の動作が重なって関節にかかる力が偏っていく、という積み重ねの構図で捉えると理解しやすくなります。
加齢による軟骨の変化
関節軟骨は水分を多く含み、体重の衝撃を分散するクッションの役目を担います。年齢とともに水分量やコラーゲンの質が変わり、弾力性が落ちてくると、同じ動作でも表面が摩耗しやすくなります。すり減った軟骨は元の厚みに戻りにくく、関節の隙間が少しずつ狭まっていく。これが変形性膝関節症の土台です。
体重増加やO脚など骨格的な負担
平地を歩くだけでも膝には相応の負荷がかかるため、体重の増加は関節面への負荷をそのまま押し上げます。加えてO脚があると、荷重が膝の内側へ偏りやすい。内側から先に軟骨がすり減る形で進む方が多いのは、この偏りが関わっています。
立ち仕事や正座など膝への負担が大きい生活動作
しゃがむ、ひざまずく、重い物を運ぶ、長時間立ち続ける。こうした動作を仕事として繰り返す人では、膝の変形性関節症が多くみられる傾向が、複数の観察研究をまとめた解析で示されています3。正座も膝を深く曲げて関節面を圧迫する姿勢で、頻度が増えるほど負担は積み重なります。
過去の膝の怪我や筋力低下の影響
半月板を痛めた経験や靱帯の損傷歴があると、関節の適合が崩れて一部に力が集中しやすくなります。太ももの前面にある大腿四頭筋の筋力が落ちることも、着地の衝撃を吸収しきれず関節への負担が増える要因。若い頃のスポーツ歴を思い出しながら相談に来られる方も珍しくありません。
軟骨がすり減る仕組みと進行段階別の症状

軟骨の摩耗は一気に進むものではなく、出てくる症状も段階で移り変わります。ご自身の膝がどの特徴に近いか、照らし合わせてみてください。
初期:立ち上がりや歩き始めのこわばり
朝起きた直後や椅子から立ち上がる最初の数歩だけ膝が重い、こわばる。動き出すと軽くなるため見過ごされやすい段階です。ただ早期の段階でも、歩行や階段昇降、筋力といった機能面の変化が同年代の対照群と比べて生じていることが報告されています2。痛みが軽いうちから、体の使い方は変わり始めています。
中期:正座がしづらい・階段の下りで痛む段階
摩耗が進むと関節の内側に炎症が起こり、水がたまって膝が重く感じることもあります。正座で深く曲げたときの圧迫感、階段の下りで体重を片脚で受け止める瞬間の痛みは、この時期に目立ちやすい訴え。正座と階段の下りは、膝にかかる負荷が大きい動作の代表格です。
末期:安静にしていても痛む・可動域が狭まる段階
骨同士の間隔が狭まり、骨棘(こつきょく)と呼ばれる突出ができてくると、曲げ伸ばしの範囲が制限されます。歩き始めだけでなく、じっとしている時間や夜間にも痛みを感じる場面が増え、O脚の変形が外見にも表れてくる段階。買い物や入浴といった生活動作全般に影響が及びます。
レントゲンによる進行度の確認方法
進行度の評価では、関節の隙間の狭まりと骨棘の有無を段階分けするケルグレン・ローレンス分類が広く用いられます。立った姿勢で撮影すると、荷重がかかった状態の隙間を確認しやすくなります。当院では、できる限り正確な診断のうえで適切な治療につなげられるよう、デジタル透視機能付レントゲンや骨密度測定装置(DEXA)などの設備を導入しています。
進行についてよくある誤解
受診をためらう背景には、思い込みが挟まっていることがあります。よく耳にする三つを取り上げます。
「痛みが軽い=進行していない」とは限らない
自覚症状の強さと画像上の変化は、必ずしも足並みをそろえません。痛みが軽い段階でも筋力や動作の変化が生じていることが示されており2、反対に画像の変化がある程度進んでいても痛みを感じにくい方もいます。痛みの有無だけで進行の程度を判断しないことが、状態を早めに確認しておくお勧めの理由です。
「安静にしていれば治る」だけでは進行を防げない
痛みが強い時期に無理を重ねないのは大切な判断です。とはいえ動かさない期間が長引くと大腿四頭筋が落ち、関節を支える力そのものが弱まります。すると同じ動作でも軟骨にかかる力が増えるという流れに。痛みの強い時期は負荷を控え、落ち着いたら膝を深く曲げない運動から戻していく。この切り替えの見極めが分かれ目になります。
O脚だから仕方ないと諦めてしまう前に
骨格の傾き自体を自力で変えることはできません。ただ、荷重の偏りに関わる条件は他にもあります。体重、筋力、靴底の減り方、しゃがむ動作の回数、仕事上の膝への負担3。同じO脚でも、これらの違いで経過のたどり方には差が出ます。変えられる部分から手をつける発想に切り替えると、取り組める余地は残っています。
進行を遅らせるための対策と受診の目安

家でできる工夫と、医療機関で相談する内容は役割が分かれます。両方を並行させると判断がぶれにくくなります。
自宅でできる大腿四頭筋トレーニングと体重管理
椅子に座って片脚をゆっくり伸ばし、5秒ほど保ってから下ろす。床では膝の下に丸めたタオルを入れ、押しつぶすように力を入れる。膝を深く曲げずに大腿四頭筋へ刺激を入れられるため、痛みの程度に合わせて回数を調整しやすい運動です。体重は1kgの違いでも歩行時の膝への負荷に響くので、食事の見直しと組み合わせると現実的。
受診を検討する具体的な目安
- 正座や深くしゃがむ動作がしづらくなってきた
- 階段の下りで痛みが出る、手すりに頼る回数が増えた
- 立ち仕事の後に膝が腫れる、熱っぽさが残る
- 膝が最後まで伸びない、または曲がらない
- 痛みで夜間に目が覚めることがある
数週間以上続く場合や、仕事・家事に支障が出始めた段階が相談しやすいタイミングです。
整形外科で相談できる保存療法の選択肢
状態に応じて、運動療法、機械を用いた物理療法、足底板や装具、内服・外用薬、関節内へのヒアルロン酸注射などが検討されます。いずれも学会のガイドラインで示された内容をもとに、症状の程度や生活背景に合わせて組み立てていく形です。
保存療法で起こりうる主なリスク・副作用
- 関節内へのヒアルロン酸注射:注射した部分の痛み、発赤、腫れ、熱感、内出血、一時的に膝に水がたまる、まれに関節内の感染
- 内服薬:胃の痛みや胸やけ、食欲の低下、腎臓や肝臓の検査値の変化
- 外用薬(貼り薬・塗り薬):皮膚のかゆみ、発赤、かぶれ、貼った部分の色素沈着
- 運動療法・物理療法・装具:一時的な痛みの増加、筋肉の張りやこわばり、装具が当たる部分の皮膚の赤みや擦れ
自由診療として行われる再生医療という選択肢
いわゆる再生医療と呼ばれる方法は、公的医療保険の対象外となる自由診療です。膝では、ご自身の血液から血小板を多く含む成分を取り出して関節内に注射する方法(PRPなどと呼ばれます)と、脂肪や骨髄から採った細胞を培養して関節内に注射する方法があり、いずれも診察・血液検査などの事前検査、成分や細胞の採取、関節内への注射、その後の経過確認という流れで進みます。
一般的な目安として、血液を用いる方法は注射1〜3回程度を数週間おきに行い、経過観察を含めて3〜6ヵ月ほどの期間がかかり、費用は1回あたり3万〜10万円程度、事前検査を含めた総額で5万〜30万円程度とされています。細胞を培養して用いる方法は注射1〜2回で、細胞の採取から培養、注射、経過観察までを含めて3〜12ヵ月ほどの期間となり、費用は総額100万〜300万円程度と幅があります。これらは複数の医療機関の公開価格から一般的に言える相場であり、当院の費用ではありません。当院の費用は診察のうえでご案内します。
再生医療で起こりうる主なリスク・副作用
- 注射した部分の痛み、発赤、腫れ、熱感、内出血、一時的に膝に水がたまる
- まれに関節内の感染、強い痛みや発熱
- 血液や細胞を採取した部分の痛み、皮下出血、色素沈着、傷あと
- 期待した変化が得られない場合がある
効果と有害事象のいずれも現時点で分かっていることが限られ、系統的レビューでも確実性は限定的と評価されています1。標準的な保存療法とは位置づけが異なるため、まずは診察で膝の状態を確認し、必要な検査を行ったうえで方針を相談することをお勧めします。
よくある質問
Q. 変形性膝関節症を進行させないためには、何から始めればよいですか。
A. 膝を深く曲げない範囲での大腿四頭筋の筋力維持、体重の管理、正座やしゃがみ込みなど関節面を強く圧迫する動作の頻度を見直すことが基本の組み合わせになります。強度の高い運動より、負担の少ない動きを毎日続けるほうが取り組みやすい方が多いです。
Q. 変形性膝関節症になりやすいのはどのような人ですか。
A. 年齢を重ねた方、女性、体重が増えている方、O脚傾向のある方、膝の外傷歴がある方、しゃがむ動作や重量物の取り扱いが多い仕事に長く従事した方などで頻度が高い傾向が報告されています3。当てはまる項目が多いほど、早めの状態確認が役立ちます。
Q. なぜ膝の軟骨がすり減るのですか。
A. 加齢による軟骨の性質の変化に、体重や骨格の傾きによる荷重の偏り、繰り返しの動作負担が重なることで、特定の部位に力が集中します。その結果として軟骨の摩耗が進み、関節の隙間が狭まっていくという流れで捉えられています。
Q. 1日何歩くらい歩くとよいのでしょうか。
A. 一律の歩数を示すのは難しく、痛みが出ない範囲で日常の活動量を保つという考え方が現実的です。歩いた翌日に腫れや痛みが残る場合は歩数が過多のサインとして、距離や路面、靴を見直します。歩数の目標は診察で膝の状態を確認したうえで一緒に決めるほうが安全です。
Q. 整形外科を受診する目安がわかりません。
A. 痛みが数週間続く、階段や正座など特定の動作で毎回痛む、膝が伸びきらない、腫れを繰り返す。こうした変化があれば相談の段階と考えてよいでしょう。画像で関節の状態を確認してから対策を組むほうが、遠回りを避けやすくなります。
参考文献
1. Whittle SL, Johnston RV, McDonald S, et al. Stem cell injections for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2025. PMID: 40169165 / DOI: 10.1002/14651858.CD013342.pub2
2. Shimizu H, Shimoura K, Iijima H, et al. Functional manifestations of early knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rheumatology. 2022. PMID: 35554743 / DOI: 10.1007/s10067-022-06150-x
3. McWilliams DF, Leeb BF, Muthuri SG, et al. Occupational risk factors for osteoarthritis of the knee: a meta-analysis. Osteoarthritis and Cartilage. 2011. PMID: 21382500 / DOI: 10.1016/j.joca.2011.02.016
2002年 札幌医科大学麻酔科入局、札幌医科大学医学部附属病院 麻酔科
2003年 旭川赤十字病院 麻酔科
2004年 帯広厚生病院 麻酔科
2005年 横浜市立大学整形外科入局、横浜市立大学附属市民総合医療センター 整形外科
2006年 聖ヨゼフ病院(横須賀市) 整形外科
2008年 藤沢市民病院 整形外科
2010年 国際医療福祉大学熱海病院 整形外科
2012年 平塚共済病院 整形外科・手外科センター 医長
2015年 熊本機能病院 整形外科(国内留学)
2016年 横浜市立大学 整形外科助教 上肢・腫瘍グループ
2017年 同グループチーフ
2018年 一宮西病院 整形外科 副部長
2023年 たけもと整形外科 開院
2026年 医療法人紫翠会 木曽川たけもと整形外科 理事長
日本整形外科学会/日本専門医機構 整形外科専門医
日本手外科学会 手外科専門医
日本骨粗鬆症学会 認定医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医
麻酔科標榜医
産業医、日本医師会認定産業医
小児運動器疾患指導管理医師
身体障害者福祉法第15条指定医(肢体不自由)
難病指定医
臨床研修指導医
【所属学会】
日本整形外科学会
日本手外科学会
日本骨粗鬆症学会
日本整形外傷学会
日本運動器科学会
日本肘関節学会
中部日本整形外科災害外科学会
あわせて読みたい関連記事
