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親指の付け根がズキッとする、その正体を見極める
瓶のフタを回した瞬間、親指の付け根に響く痛み。雑巾を絞るのもためらう一方で、「病院に行くほどでは」と迷う方は多いものです。この記事では母指CM関節症の仕組みと自宅での確認手順、ドケルバン病との違い、負担を軽くする工夫を整理します。
この記事の要点まとめ
- 瓶のフタ開けやつまむ動作で親指の付け根が痛む場合、母指CM関節症の可能性があります。
- 痛む位置や腫れ、変形を確認し、手首付近が痛む腱鞘炎などとの違いを把握することが大切です。
- 装具や道具の工夫といった保存療法のほか、日常動作に支障がある場合は受診が検討されます。
母指CM関節症とは?親指の付け根に起こる変形性関節症の仕組み

親指の付け根(CM関節)の構造と役割
親指の付け根にあるCM関節(第1手根中手関節)は、手首側の小さな骨と親指の骨が鞍のように組み合わさった関節です。曲げ伸ばしだけでなく、開く・回すといった動きまで受け持つため、手の中でも動く範囲が広い部分。ペンをつまむ、包丁を握る、フタをひねる——こうした動作では親指が他の指と向かい合い、この関節が土台として力を受け止めます。つまむ動作では、指先にかかる力よりも大きな負荷が付け根に集まりやすい構造と考えられています。
瓶のフタ開けや雑巾絞りで痛みが出る理由
年齢とともに関節軟骨が薄くなり、関節を支える靭帯がゆるむと、骨同士がわずかにずれる亜脱臼の傾向が現れます。つまむ・ねじる動きは関節面を斜めに押し合う力になるので、この状態では一点に負荷が偏りやすい。瓶のフタ開け、雑巾絞り、洗濯物を干す動作で痛みが出やすいのはそのためです。進行した例では付け根が角ばって見えたり、親指が開きにくくなることも報告されています1。
更年期・女性ホルモンの減少との関係
母指CM関節症は、加齢と手の使いすぎが重なって生じる変形性関節症のひとつで、閉経前後の女性に多くみられます。女性ホルモン(エストロゲン)の減少が関節や腱のまわりの組織の状態に関わると考えられており、更年期に手指の不調が重なる方は珍しくありません。「年のせい」と片づけず、いつから、どの動作で痛むのかを書き留めておくと、診察での手がかりになります。
自宅でできるセルフチェック方法

押して痛む・腫れる・変形の3つの確認ポイント
反対の手の指先で、手首と親指の境目にあたるくぼみを軽く押してみてください。母指CM関節症では、手首の中央ではなく親指の根元の関節そのものに痛みが集まる傾向があります。次に左右の手を並べ、付け根のふくらみや腫れ、関節が外側へ角ばって出ていないかを見比べます。痛む場所・腫れ・出っ張りの3点を左右差で確認するのが、自宅でできる基本の見方です。
つまむ・ねじる動作で確かめる簡易テスト
親指と人差し指で紙をはさんで軽く引っ張る、空のペットボトルのフタを開ける動きをまねる。このとき付け根にズキッと響くかを確かめます。さらに、親指を手のなかに握り込んだまま手首を小指側へゆっくり倒したときに手首の親指側が痛む場合は、後述する腱の問題の可能性も出てきます。痛みが強いときは無理に繰り返さず、そこで止めてください。
軽い症状と進行している症状の見分け方
使ったときだけ痛み、休めば引いていく場合と、安静にしていても痛む、夜間に響く、フタが開けられない、付け根の出っ張りがはっきりしてきた、親指が反り返るように見える場合とでは、状態が異なることがあります1。ただし、これらの変化だけで自分で軽重を判断するのは難しく、症状が続く場合や変化が気になる場合には、一度状態を確認してもらう流れが安心です。
よくある誤解:ドケルバン病や他の病気との違い
母指CM関節症とドケルバン病、痛む場所の違い
「親指が痛い=腱鞘炎」と考えられがちですが、痛む位置が手がかりになります。母指CM関節症は親指の根元の関節部分が痛みの中心。対してドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)は、そこより手首寄り、手首の親指側の骨の出っ張り付近で腱がこすれて痛みます。手首を小指側へ倒したり親指を伸ばしたりすると鋭く痛むのがドケルバン病に多い特徴で、ねじる・つまむ動作でこたえるのがCM関節症に多い特徴です。
ヘバーデン結節・関節リウマチとの見分け方
指先に近い第一関節が膨らんで痛むのはヘバーデン結節にみられる変化で、部位が明確に異なります。また、左右の複数の関節が朝方にこわばり、30分以上ほぐれにくい、手の甲や足の指まで腫れが広がるといった場合には、関節リウマチなど全身の関節に関わる病気も候補に入ってきます。この区別は見た目だけでは難しく、画像や血液の検査を組み合わせて判断します。
「様子を見てよい」と「受診したほうがよい」の境目
一日使いすぎた日の夕方だけ痛む、翌朝には落ち着いている——この程度なら少し休ませて経過をみる選択もあります。逆に、痛みが数週間以上続く、握力が入らず物を落とす、付け根の形が変わってきた、両手や他の指にも症状が広がる場合は、早めに整形外科で状態を確認しておくほうが判断しやすくなります。軽い段階での相談も、遠慮する必要はありません。
保存療法と日常生活でできる負担軽減の工夫
サポーター・テーピングによる固定
痛む関節の動きを少し抑えるだけでも、日々かかる負荷は変わってきます。母指CM関節症では親指の付け根を包み、手首まで軽く支える装具療法(サポーター)が広く用いられます。市販のサポーターは、薬局やインターネット通販で公開されている価格をみると、おおむね1,500〜6,000円程度で販売されているものが中心です。使用期間は痛みの程度によりますが、家事や仕事の時間帯に限って装着し、数週間から3ヵ月程度を目安に経過をみながら続け方を調整していく形が一般的です。なお、ここで挙げた金額は一般的な相場であり当院の費用ではありません。当院の費用は診察のうえでご案内します。テーピングで親指を人差し指側へ軽く引き寄せる方法もあり、家事の時間だけ使うといった使い分けが現実的です。
湿布・消炎鎮痛剤と安静の取り入れ方
痛みが強い時期は、消炎鎮痛成分を含む外用薬や内服薬を用いて関節を休ませる期間をつくります。皮膚が弱い方では貼付部のかゆみや赤みが出ることもあるため、症状が出た場合は使用を止めて相談してください。内服薬は胃の負担などにも配慮が必要で、自己判断で長く続けるより、期間を決めて使う考え方が無理がありません。
瓶のフタ開けや雑巾絞りで親指に負担をかけない工夫
道具に頼ることは手抜きではなく、関節を守る具体的な手段です。フタ開け器やゴムシートを使えば親指でひねる力は要りません。雑巾は絞らず、押しつけて水を切るタイプのモップに替える。買い物袋は指先で持たず腕にかける。包丁やペンは太めのグリップに替えると、つまむ力が分散します。「親指でひねる・つまむ」動作を別の方法に置き換えることも、負担を減らす工夫のひとつです。
改善しない場合の治療選択(注射・リハビリ・手術)
固定や薬で変化が乏しいときは、関節内への注射やリハビリテーションでの動かし方の指導、周囲の筋肉を使う運動療法などが検討されます。他部位の関節・腱の障害でも、運動療法の有用性を調べた研究報告が積み重ねられています23。日常生活への支障が続く例では、関節形成術や関節固定術といった手術が選択肢に挙がりますが、手術方法ごとの優劣は現時点で明確とは言えないとする検討もあります1。腫れや感染、しびれなどの合併症の可能性も含め、生活への影響と併せて相談したうえで決めていく領域です。
よくある質問
Q. この程度の痛みで整形外科を受診してもよいのでしょうか。
A. 受診の目安として分かりやすいのは、生活動作に支障が出ているかどうかです。フタが開けにくい、雑巾が絞れない、力が入らず物を落とすといった変化があれば、痛みの強さにかかわらず相談してよい状態です。骨折や腰の痛みだけが対象ではありません。
Q. 親指の痛みで血液検査をすることはありますか。
A. 複数の関節が腫れている、朝のこわばりが長く続くなど、全身の関節に関わる病気も考えられる場合には、血液検査を組み合わせて調べることがあります。症状の出方によって必要な検査は変わるため、診察のうえで判断されます。
Q. 仕事で手を使うのですが、休まないと落ち着きませんか。
A. 完全に休めない方が多いのが実情です。痛みが出る動作だけを道具や別の持ち方に置き換え、サポーターを使う時間帯を決めるなど、続けながら負担を下げる調整から始める方法がよくとられます。
Q. 変形が始まっていたら、もう元の形には戻らないのですか。
A. 関節の形そのものは元に戻るものではありませんが、負荷の掛け方や固定、運動療法などで痛みとの付き合い方を組み立てていく余地があります。今の段階を把握することが、次の選択につながります。
Q. 温めるのと冷やすのは、どちらがよいのでしょう。
A. 使った直後で熱っぽく腫れているときは冷やし、こわばりが気になるときや動かす前は温める、という使い分けが一般的です。試して痛みが強まる場合は続けず、状態を相談してください。
参考文献
1. Baljer B, Vinycomb T, Low N. Surgery for thumb (trapeziometacarpal joint) osteoarthritis. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2026. PMID: 42206643 / DOI: 10.1002/14651858.CD004631.pub6
2. Idáñez-Robles AM, Obrero-Gaitán E, Lomas-Vega R, et al. Exercise therapy improves pain and mouth opening in temporomandibular disorders: A systematic review with meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2023. PMID: 36263523 / DOI: 10.1177/02692155221133523
3. van der Vlist AC, Winters M, Weir A, et al. Which treatment is most effective for patients with Achilles tendinopathy? A living systematic review with network meta-analysis of 29 randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2021. PMID: 32522732 / DOI: 10.1136/bjsports-2019-101872
2002年 札幌医科大学麻酔科入局、札幌医科大学医学部附属病院 麻酔科
2003年 旭川赤十字病院 麻酔科
2004年 帯広厚生病院 麻酔科
2005年 横浜市立大学整形外科入局、横浜市立大学附属市民総合医療センター 整形外科
2006年 聖ヨゼフ病院(横須賀市) 整形外科
2008年 藤沢市民病院 整形外科
2010年 国際医療福祉大学熱海病院 整形外科
2012年 平塚共済病院 整形外科・手外科センター 医長
2015年 熊本機能病院 整形外科(国内留学)
2016年 横浜市立大学 整形外科助教 上肢・腫瘍グループ
2017年 同グループチーフ
2018年 一宮西病院 整形外科 副部長
2023年 たけもと整形外科 開院
2026年 医療法人紫翠会 木曽川たけもと整形外科 理事長
日本整形外科学会/日本専門医機構 整形外科専門医
日本手外科学会 手外科専門医
日本骨粗鬆症学会 認定医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医
麻酔科標榜医
産業医、日本医師会認定産業医
小児運動器疾患指導管理医師
身体障害者福祉法第15条指定医(肢体不自由)
難病指定医
臨床研修指導医
【所属学会】
日本整形外科学会
日本手外科学会
日本骨粗鬆症学会
日本整形外傷学会
日本運動器科学会
日本肘関節学会
中部日本整形外科災害外科学会
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